真夜中の食欲・「東京青年」編


片岡義男さんの本をはじめて読んだのは中学生のとき。「少年の行動」という小説でした。スーパーマーケットの中の小さな本屋で、何冊か並んだ片岡義男さんの文庫本のうち、どれを買おうか迷っていたのですが、「少年の行動」を選んだのは、最初のミルク・バーのシーンでの紅茶とドーナツに惹かれたから。ふだん紅茶なんて、おいしいともおいしくないとも思っていなかったのに、急に紅茶に夢中になり、ティーバッグを何個も入れたポットを自分の部屋に持って行って、何杯も飲んでは満足していました。
それからたくさんの片岡義男さんの小説やエッセイを読みましたが、忘れがたい食のシーンの多いこと(もちろん食だけではありません!)。とても絞りきれません。なので、小説「東京青年」一冊の中から『コーヒーと胡瓜のサンドイッチ』。

魅力的に濃いコーヒーは、端正に小さめのカップで出て来た。胡瓜のサンドイッチは思いきって大きな皿に、かなりの量があった。かたわらにはポテトチップスがひとつかみ添えてあった。コーヒーの出来ばえは完璧に近く、胡瓜のサンドイッチは正解だった。ポテトチップスはどちらにも良く調和した。
                    「東京青年」より

登場人物のヨシオがエイヴォンという喫茶店で、何度も注文する「コーヒーと胡瓜のサンドイッチ」。これがずっと頭から離れなくて真似して何度か作ってみたことがありますが、絶対に違うんです。胡瓜はどのくらいの薄さに切ればいいのか、パンにはマヨネーズを塗るのかバターを塗るのか、マスタードは使わないのか。サンドイッチは三角に切るのか長方形か正方形か。ポテトチップスは手作りなのか市販品か、外国製のような気もするし・・・。実際に作ると疑問だらけ!きっと永遠にたどり着けないことでしょう!